日本の特許出願の流れ
Typical Procedure Flow of Japanese Patent Applications
Typical Procedure Flow
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国内出願/PCT国内移行
願書・明細書・特許請求の範囲(クレームともいう。)・要約書・図面(任意)を特許庁に提出します。PCT出願(国際特許出願)の日本への国内移行の場合には国内書面を特許庁に提出します。PCT出願が英語で提出されている場合、国内移行時には明細書等の日本語翻訳文の提出も必要となります。尚、出願時には委任状の提出は不要となります。
国内出願の流れ
- 発明内容のヒアリング(リアル又はオンライン面談)
- 先行技術調査(必要に応じて)
- 請求項案(クレーム案)とこれらに対応する作用効果の提示
- ↑に対するクライアントからの回答
- 明細書案・図面案の提示
- ↑に対するクライアントからの回答
- 出願手続き
また、出願前に既に発明内容が公知となっている場合には、公知日から1年以内の出願であれば発明の新規性喪失の例外の適用を受けることが可能です。本手続を通じて、自己の公知行為により発明の新規性が喪失されないこととなります。
また、出願後に新たな改良発明を明細書等に追加したい場合には、出願日から1年以内であれば国内優先権制度の活用も検討可能となります。例えば、最初の出願の開示内容がA+B+Cであって、新たな実施例Dを加えて国内優先権の主張を伴う出願をした場合(開示内容=A+B+C+D)、A+B+Cの開示内容についての特許性(新規性/進歩性)の判断基準日は最初の出願日となります。
審査請求
特許庁に対して特許請求の範囲に記載された発明(クレーム発明)が特許性(新規性・進歩性等)を満たすかどうかを審査してもらう必要があります。審査請求では、スーパー早期審査、早期審査の請求も可能となります。
特許庁が発行するステータスレポート2024の資料によれば、スーパー早期審査の場合では、審査請求日から最初の審査結果(最初の拒絶理由又は特許査定)の送達日までの平均月数が0.8月となります。早期審査の場合では、当該平均月数が2.2月となります。早期審査の申請要件については本ページをご確認ください。
また、大企業に支配されていない中小企業・スタートアップ企業(個人事業主含む。)が出願人である場合には、審査請求料の軽減申請が適用可能となります。中小企業様の場合、審査請求料が1/2に軽減となり、スタートアップ企業・小規模企業様の場合、審査請求料が1/3に軽減となります。軽減申請に関する詳しい情報は以下の記事をご参照ください。
拒絶理由通知
特許庁より発明の特許性(新規性や進歩性)に関する拒絶理由が示された拒絶理由通知書を受領した場合には、当該通知書の送達日から60日以内に意見書及び/又は補正書を提出することができます。また、60日の指定期限に対しては2月延長が可能となります。当該通知書に対して何ら応答しない場合には拒絶査定となります。
例えば、請求項1に記載の発明がCL1=a1+a2+a3の構成であって、引例D1がa1,a2,a3を開示している場合、CL1は引例D1により新規性がないということになります。また、引例D2がa1,a2を開示する一方、引例D3がa3を開示している場合であって、引例D2とD3を組み合わせる動機付けが存在する場合では、CL1は引例D2と引例D3により進歩性がないということになります。
この場合、補正書により発明特定事項a4を発明CL1に追加することで(補正後の発明CL1’=a1+a2+a3+a4)、引例D1に対する新規性や引例D2及びD3に対する進歩性を意見書において主張することが考えられます。また、補正書を提出せずに、意見書において審査官の認定の誤り(例えば、引例D1の要素a3はCL1の発明特定事項a3には相当しない等)を主張することも考えられます。
補正書・意見書の提出により拒絶理由通知に対して応答した後に、再度拒絶理由通知が来ることがあります。二回目の拒絶理由通知が最後の拒絶理由通知である場合では、クレームの補正内容が制限される点に留意が必要です(特に、クレームの範囲を拡張する補正はできない点に留意が必要)。
拒絶理由の対応では、審査官との面接等を活用するのも効果的な手法となります。コロナ禍以降、審査官との面接もオンライン化が進んでおります。また、拒絶理由が明確性要件違反、サポート要件違反、新規事項追加である場合では、応答書の提出前にクレーム補正案を審査官に確認してもらうのも効果的な手法となります。クレーム補正案のワードファイルを電子メールで審査官に送付することも可能となります。
拒絶理由通知に対する一般的な応答の流れ
- 拒絶理由通知の報告
- 拒絶理由に対するコメントの提示
- ↑に対するクライアントからの回答
- 補正書案・意見書案の提示
- ↑に対するクライアントからの回答
- 補正書・意見書の提出
進歩性に関しての記事はこちらもご参照ください。
補正に関しての記事はこちらもご参照ください。
拒絶査定
意見書・補正書の提出によっても拒絶理由が解消されなかった場合に、拒絶査定となります。拒絶査定に対しては、1)拒絶査定に対する不服審判の請求、2)分割出願、3)再出願(公開前が条件)の三つの対応が考えられます。
また、不服審判請求と分割出願の両方を行うのも一手かと思われます。例えば、現行クレームの中に認可クレーム(拒絶理由を指摘されていないクレーム)がある場合であれば、審判請求時において認可クレームの発明特定事項で独立クレームを減縮補正しつつ、分割出願では原出願とは異なる範囲のクレームで再度チャレンジをするといったことも検討可能となります。
尚、今年の4月より原出願が審判係属中の場合では、原出願の審判の結果が判明するまで分割出願の審査中止を上申書又は送信用フォームで申請できることとなりました(詳しい内容をこちらをご参照ください)。
また、拒絶査定謄本送達日から3月以内に不服審判請求又は分割出願をする必要がございます(延長は不可)。さらに、審判請求の際には委任状(出願人の押印/署名不要)の提出が必要となります。不服審判の審理を加速するための早期審理の申請をすることもできます(早期審理申請の場合、2017年度の実績では平均4月での審決)。
前置審査/不服審判
不服審判請求時において補正書を提出した場合には、審判官合議体による審理の前に前置審査が行われます。前置審査では、拒絶査定をした審査官が補正後のクレーム発明を再審査することで拒絶が解消しているかどうかの判断を行います。前置審査の結果、拒絶が解消されている場合では特許査定となる一方、拒絶が解消されていない場合では前置審査の結果が特許庁長官に報告されます。出願人は、前置審査報告書に対して上申書を提出することが可能となります。
また、不服審判では、審決前に拒絶理由通知が審判官合議体により発行される場合が多いかと思います。合議体より発行される拒絶理由通知は、審査時の拒絶理由通知と比較して、かなり詳細なものとなります。拒絶理由通知書の頁数も数十頁となる場合もあり、審判官が指摘する拒絶理由を丁寧且つ詳細に分析する必要がございます。
最終的に拒絶審決となった場合には、知的財産高等裁判所(中目黒のビジネスコート)に審決取消訴訟を提起することで審決の違法性を争うことが可能となります。出訴期間は、審決謄本送達日から30日以内となります。
ステータスレポート2024によれば、拒絶査定に対する不服審判請求における請求成立率(特許審決率)は、約78%となります。このように、審判の成功率が高い点は注目すべき点となります。審判官合議体から発行された拒絶理由通知に対する応答において、請求項が減縮補正されるのも一因かと思います。
特許査定
特許査定となった場合、特許査定謄本の送達日から30日以内に1-3年分の特許料を支払うことで特許権が設定登録されます。その後、特許公報が発行されます。特許権の存続期間は特許出願日から20年となります。
特許権を維持するためには、各年分の特許料(4年度以降の特許料)を毎年支払う必要がございます。毎年の特許料の支払いの管理を年金管理といいます。例えば、特許権の設定登録日が2023年4月3日である場合、第4年度の特許料の納付期限は2026年4月3日となります。第5年度の納付期限は2026年5月3日となります。
また、中小企業・スタートアップ企業(個人事業主含む。)が出願人である場合には、第1-10年分の特許料の軽減申請が適用可能となります。中小企業様の場合、特許料が1/2に軽減となり、スタートアップ企業・小規模企業様の場合、特許料が1/3に軽減となります。
また、特許査定謄本の送達日から30日以内であれば分割出願が可能となります。特許権の成立後は、訂正審判若しくは訂正請求を通じてクレームの権利範囲を実質的に拡張・変更することは困難であるため、将来的な係争に備えて分割出願をしておくことも一手であると思われます。
特許異議の申立て
特許掲載公報の発行日から6月以内であれば、何人も特許に対して異議を申立てることができます。例えば、新規性若しくは進歩性がないことを理由として誰でも異議を申立てることができます。異議申立ての審理は審判官合議体によって行われます。特許を取り消すべき理由があると合議体により判断された場合には、取消理由通知が特許権者に送達されます。特許権者は、取消理由通知に対して意見書及び訂正請求書を提出することができます(応答期限は、取消理由通知の送達日から60日以内)。
また、異議申立てと対比される特許無効審判では、利害関係人(例えば、特許権侵害訴訟の被告側)のみしか無効審判の請求ができない点に留意が必要となります。
特許庁が発行するステータスレポート2024によれば、2023年の特許異議申立て件数は1411件であった一方で、同年の特許無効審判件数は84件でした。2015年4月に特許異議申立て制度が復活してから無効審判件数は年々減少している一方で、異議申立て件数は年々増加しております。
異議申立期間(特許公報発行日から6月以内)の制約があるものの、ダミーによる申立が可能な点や弁理士費用等を総合的に判断すると無効審判より異議申立の方が利用しやすいのではないかと思います。
詳しくはこちらの記事をご参照ください。
特許出願に関する実務情報についての記事も参考になると思います。