ついに知的財産を題材にしたテレビドラマがお茶の間にやってきました。
「それってパクリじゃないですか?」(日テレ、毎週水曜夜10時)
https://www.ntv.co.jp/sorepaku/
筆者(芹澤)も昨日のドラマをリアルタイムで視聴しておりました。
以前も池井戸潤先生の原作の連続ドラマ「下町ロケット」や「陸王」において特許が話題となることはありました。ただこれらのドラマでは、特許訴訟を担当する弁護士(モデルは実在のS先生)が登場するものの、顧客に一番近い存在の弁理士が登場することはありませんでした。
今回のドラマでは、主人公の一人であるメーカ知財部の弁理士である北脇雅美(重岡大毅)、特許事務所の所長弁理士である又坂市代(ともさかりえ)、ライバル会社の知財部部長の弁理士である田所ジェセフ(田辺誠一)の三者異なる役割の弁理士が登場しております。まさに弁理士が主役のドラマなのです。
我ら弁理士会は本ドラマのスポンサーになっているのでしょうか?
いままでは特許訴訟における巨額賠償額判決等が知財業界のなかでは有効なマーケティングとはなっていたのですが(それもメーカ企業等に限定されます)、今回のドラマは、子供も含めたお茶の間に対する弁理士の認知度向上のためのドラマといっても過言ではないかと思います。放映前に弁理士会からドラマ放映の告知メールもございました。
第一話は、主人公である藤崎亜季(芳根京子)が着想したボトルのアイディアがライバル会社に盗まれた上で、当該ライバル会社が盗んだアイディアを特許出願して権利化したといった話になります。
ドラマの中では冒認出願等の話や特許権の移転登録請求の話が出てきますが、前提知識がないと少し難しいお話となります。
ご説明しますと、原則として特許権は特許を受ける権利を有する者(原則としては発明者)に対して与えられる排他権となります。発明者とは、発明の着想の提供をした者や着想の具体化をした者となります。
今回の例で言えば、主人公の藤崎がボトルの発明の着想を提供した者となりますので、発明者の一人となります。発明者は、特許を受ける権利を有しますので、原則としては発明者が特許権を取得できるのです。
その一方で、従業員と会社との間の契約(職務発明規定等)によっては、発明完成時において特許を受ける権利は発明者ではなく会社のものになります。
月夜野ドリンクの職務発明規定はわかりませんが、恐らくは特許を受ける権利は会社に原始的に帰属しているように思われます。ですので、月夜野ドリンクが特許を受ける権利を持っていることになります。ちなみに、この権利は譲渡可能となります。
で今回の話ですが、ライバル会社であるハッピースマイルビバレッジ(以下、ハッピースマイル)は、主人公が着想したボトルのアイディアを無断で特許出願しています。
これは特許を受ける権利を有する者の正規の出願ではないため、冒認出願(特許を受ける権利を有しない者の特許出願)となります。勿論、ハッピースマイルが独自にボトルのアイディアを開発していた場合には状況は異なります。その場合にはハッピースマイルも特許を受ける権利を有することとなります。
昔の特許法では、ハッピースマイルの特許権は冒認出願によって無効の理由となっておりましたが、現在ではそのような特許権については特許を受ける権利を有する正当権利者に移転登録することが可能となりました(特許法平成23年改正)。
今回のケースでは確固たる証拠が偶然あったため、ハッピースマイル側も移転登録の請求に応じたものの、現実問題としては冒認出願の証拠を掴むのはかなり難しいかと思います。
また、出願前に秘密保持契約(NDA)等をせずにライバル会社にボトルのアイディアを開示している行為は厳密に言えば新規性を失う行為となります。つまり、移転請求後の特許権は潜在的には無効理由を抱えていることになります。
自己の公知行為に対しては新規性喪失の例外を主張可能ですが、これは特許出願時にその旨を願書に記載する必要があるのです(一方、米国出願であれば所定手続なくグレースピリオド(新規性喪失の例外)の主張は可能となります)。さらに、新規性喪失日から1年以内の出願が必要となります。
当事者間の契約内容次第とはなりますが、特許権移転後にハッピースマイル側が移転後の特許権に対して無効審判請求をする可能性も残されているように思われました。
結構奥が深いドラマの内容のように思われました。
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