【米国特許】米国特許商標庁が小規模団体・マイクロ団体の虚偽申告に対し罰金制度を開始(2025年6月12日発表)

米国特許商標庁(USPTO)は、今後、小規模団体(Small Entity)またはマイクロ団体(Micro Entity)の資格要件を偽って軽減適用後の庁費用を支払った出願人・特許権者(以下、出願人等)に対して法定の罰金を科すことになります(35U.S.C. 41(j)及び123(f))。虚偽による庁費用の軽減申請がUSPTOの財源を圧迫し、他の出願人の手数料を引き上げる要因になることが背景にあるようです。

1.小規模団体・マイクロ団体について

罰金制度の概要を説明する前に小規模団体(スモール・エンティティ)・マイクロ団体(マイクロ・エンティティ)の概要について以下に説明します。

小規模団体・マイクロ団体の軽減率

小規模団体・マイクロ団体の特許庁費用の軽減率(割引率)は以下となります。

  •  小規模団体・・・軽減率60%
  •  マイクロ団体・・・軽減率80%

小規模団体の資格要件

  • 個人発明者・・・発明の権利を非小規模団体に譲渡・ライセンスしていないこと。
  • 小規模企業・・・従業員数500人以下の企業(関連会社含む。)で、発明の権利を非小規模団体に譲渡・ライセンスしていないこと。
  • 非営利組織・・・大学・研究機関等で、発明の権利を非小規模団体に譲渡・ライセンスしていないこと。

マイクロ団体の資格要件

 上記小規模団体の資格要件を満たすとともに、次の要件AまたはBを満たすこと。

A. 総所得基準(Gross Income Basis)

 以下の3つの要件を全て満たすこと。

  • 各発明者・出願人・特許権者が発明者として記載された米国特許出願(PCT国内段階移行前・仮出願・全権利譲渡済の職務発明出願はカウント対象外)の件数が4件以下であること(今回の出願を含めて最大5件まで)。
  • 前年の総所得が「米国中央値世帯収入×3倍」(MQGI)を超えていないこと(2024年基準額:241,830 USD)。各発明者・出願人・特許権者にそれぞれ適用。
  • MQGI超の所得を有する第三者へ発明の権利を譲渡・ライセンスしていないこと。

B. 高等教育機関基準(Institution of Higher Education Basis)

 以下の要件のいずれかを満たすこと。

  • 出願人若しくは発明者が米国の高等教育機関から主たる給与を受けていること。
  • 特許出願または特許権が当該高等教育機関に譲渡済み/譲渡義務があること。

2.罰金の概要

 不足金額(出願人が本来支払うべき金額と軽減適用後の金額との差)の3倍以上の罰金が出願人等に科されることになります。一方、申告が善意(good faith)であったことを証明できれば罰金は免除されます(ただし、不足金の支払いは必要となります)。

3.USPTOによる手続きフロー

(1)不足額通知書兼理由説明命令書

USPTOが庁費用の軽減申請に虚偽の申告内容があるとの予備決定をした場合に、不足額通知書兼理由説明命令書(Combined Notice of payment deficiency and Order to Show Cause)が出願人等に送達されます。当該命令書に対する応答期限は発行日から通常2か月となります(延長可)。

(2)出願人等の対応オプション

 当該命令書に対する出願人等の対応オプションは以下となります。

  1. 軽減申請内の申告内容は虚偽ではないことを示す証拠付き説明書を庁に提出する。
  2. 不足金のみを納付した上で、申告内容が善意によるものだったことを示す証拠付き説明書を庁に提出する。
  3. 虚偽を認めて不足金と罰金の両方の支払いの意思を示す。

(3)最終決定通知

USPTOは、出願人等からの回答内容を精査した上で、最終的に決定された罰金額が記載された最終決定通知を発行します。

4.審査及び特許調整期間(PTA)への影響

 命令書が発行された時点で出願は審査から外れ、虚偽申告に起因する不足金と罰金が完済されるまで審査は再開されません。さらに、命令書の発行時点から審査再開までの遅延期間に相当する日数が、特許期間調整(PTA)から減算されます

5.適用時期

 2022年12月29日以降の軽減申請が本罰金制度の対象となります。一方、出願日は適用時期に関係がありません。

6.その他

 罰金は米国政府への債務となり、特許が放棄された若しくは満了した場合でも支払い義務は残ります。

7.最後に

 日本の個人や中小スタートアップ企業が米国特許出願をする場合、小規模団体若しくはマイクロ団体に基づく庁費用の軽減申請を行うことが多いかと思います。今後は虚偽の軽減申請に対して法定罰金制度が導入されるため、現在の自社の状況が小規模団体若しくはマイクロ団体の資格要件に該当するかどうかをより慎重に判断することが求められるかと思います。

8.参考

https://www.uspto.gov/sites/default/files/documents/og-uaia-2025-06-06.pdf

https://www.uspto.gov/patents/laws/micro-entity-status

日本の軽減申請に関する記事については以下をご参照ください。

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