拒絶理由通知書で指摘される拒絶理由のうち最も一般的なものは、進歩性拒絶となります。しかしながら、発明の進歩性についての考え方は知財の専門家ではない方々にとってはかなり分かりにくいものとなっております。
例えば、クレーム1に記載の発明の構成がCL1=A+B+C(例えば、Aと、Bと、Cとを備えた装置)の場合であって、引例D1がA+B+Dの装置を開示している一方、引例D2がCを開示しているとします。ここで、引例D1の構成Dを引例D2の構成Cに置換した場合に、改良された引例D1の装置は、A+B+Cのクレーム1の発明になります。
この場合、引例D1とD2によりクレーム1の進歩性が拒絶されてしまうのでしょうか?
でも強引に複数の引用文献に記載の構成を組合せ又は置換することで発明の進歩性を拒絶できるのであれば、進歩性のハードルは異常に高くなり、特許査定率(特許となる確率)は極めて低くなってしまいます。
また、審査官により進歩性の判断が大きく分かれてしまうのも良くないですよね。A審査官は進歩性の判断が甘いが、B審査官は進歩性の判断が極めて厳しい等。
進歩性の考え方というのは、我々弁理士の業務においても極めて重要となります。
そこで、進歩性の判断フローの基本について今回簡単にご紹介することにします。
実際に進歩性拒絶を受けた場合には、本判断フローを適宜ご参考頂ければと思います。
上記の判断フローの図は少し見づらいため、以下にも記載します。
本願発明の認定
例えば、本願発明CL1 = A + B + C
引用発明の認定
本願発明の課題を考慮した上で、引用発明を認定
例えば、引用発明D1 = A + B + D
本願発明と引用発明との一致点と相違点を認定
例えば、本願発明と引用発明との間の一致点はAとB、相違点はC
相違点に係る構成が副引用発明等の証拠に示されているか?
例えば、副引用発明D2 = B + C
(Step 4でYES) 主引用発明の構成と副引用発明の構成の組合せ又は置換が容易か?
- 以下4つの観点から主引用発明の構成と副引用発明の構成の組合せ又は置換に対する当業者の動機付けが存在するかについて検討
- 技術分野の関連性
- 課題の共通性
- 作用・機能の共通性
- 引用発明の内容中の示唆
- 組合せ又は置換を阻害する要因について検討(以下、阻害要因の例)
- 主引用発明に適用すると、主引用発明の目的に反するものとなるような副引用発明
- 主引用発明に適用すると、主引用発明が機能しなくなる副引用発明
- 主引用発明がその適用を排斥しており、採用することがあり得ないと考えられる副引用発明
- 主引用発明に適用して達成しようとする課題に関して、作用効果を発揮しない例として記載されており、当業者としては通常は適用を考えない副引用発明
(Step 5でNO) 進歩性あり
(Step5でYES) 予想以上の効果(予測できない顕著な効果)あり?
予測できない顕著な効果 とは…
- 異質な効果 + 予測できないもの OR
- 同質な効果 + 際立って優れた効果 + 予測できないもの
(Step 7でYES) 進歩性あり、(Step 7でNO) 進歩性なし
(Step 4でNO) 本願発明の構成と引用発明に係る構成との間の相違点が設計事項等であるか?
以下に示す観点から設計事項等であるかを検討する。また、予想以上の効果についても検討する。
- 公知材料の中からの最適材料の選択
- 数値範囲の最適化又は好適化
- 均等物による置換
- 技術の具体的適用に伴う設計事項
- 複数発明の寄せ集め
(Step 9でNO) 進歩性あり、(Step 9でYES) 進歩性なし
上記の日本の進歩性の判断基準は、日本特許庁が発行する審査基準上にも明確に記載されており、米国特許商標庁(USPTO)が発行する米国審査ガイドライン(MPEP 2141)と比較してもかなり分かり易いものとなっております。