先日のWEB3に関する記事においてドワンゴ事件(令和4年(ネ) 第10046号)について触れておりました。本事件について進展がございましたのでフォローします。
具体的には、本事件が知財高裁の大合議事件に指定されました(5名の裁判官によって判断される重要事件)。
今回の大合議事件は、日本版アミカスブリーフ(第三者意見募集)が初めて採用された業界注目の事件となります。さらに、本事件は昨年10月に開設されたビジネスコートの大合議法廷にて審理されます。口頭弁論期日は、令和5年3月29日午後2時となります。
https://www.ip.courts.go.jp/hanrei/g_panel/index.html
本事件の争点
本事件の争点は詳しくは記載しませんが、被告システムの一部の構成要件であるサーバが国外に配置されている場合に、本件発明のシステムクレームに対する被告システムの直接侵害が成立するかが争点となります(即ち、システムクレームの域外適用を認めるべきであるかが争点)。東京地裁の判決では、属地主義の原則の観点より、被告システムの直接侵害は認められませんでした。原審の判決文はこちらとなります。
前記3及び4のとおり、被告システムは本件発明の技術的範囲に属すると認められるものの、前記5のとおり、本件特許が登録された令和元年5月17日以降において被告らによる被告システムの日本国内における生産は認められず、被告らが本件発明を日本国内において実施したとは認められないから、被告らによる本件特許権の侵害の事実を認めることはできない。
東京地裁(令和元年(ワ)第25152号)の結論
システムクレームの構成
特許第6526304号のクレーム1の構成
【請求項1】
サーバと、これとネットワークを介して接続された複数の端末装置と、を備えるコメント配信システムであって、
前記サーバは、
前記サーバから送信された動画を視聴中のユーザから付与された前記動画に対する第1コメント及び第2コメントを受信し、
前記端末装置に、前記動画と、コメント情報とを送信し、
前記コメント情報は、
前記第1コメント及び前記第2コメントと、
前記第1コメント及び前記第2コメントのそれぞれが付与された時点に対応する、前記動画の最初を基準とした動画の経過時間を表す動画再生時間であるコメント付与時間と、を含み、
前記動画及び前記コメント情報に基づいて、前記動画と、前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、を前記端末装置の表示装置に表示させる手段と、
前記第2コメントを前記1の動画上に表示させる際の表示位置が、前記第1コメントの表示位置と重なるか否かを判定する判定部と、
重なると判定された場合に、前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならない位置に表示されるよう調整する表示位置制御部と、を備えるコメント配信システムにおいて、
前記サーバが、前記動画と、前記コメント情報とを前記端末装置に送信することにより、前記端末装置の表示装置には、
前記動画と、
前記コメント付与時間に対応する動画再生時間において、前記動画の少なくとも一部と重なって、水平方向に移動する前記第1コメント及び前記第2コメントと、
が前記第1コメントと前記第2コメントとが重ならないように表示される、コメント配信システム。
図面
ドワンゴとFC2は長年知財訴訟で争っており、今回の特許権侵害訴訟でドワンゴ側が用いた特許第6526304号は分割出願の第8世代のものとなります。親出願となる特願2007-053347号から現在までに11世代の分割出願がされており、親出願から派生した分割出願の件数は現時点で15件となっています。
アミカスブリーフ(第三者意見募集)
アミカスブリーフに対して色々な団体からの意見が提出されております。代表的な意見として日本弁理士会の意見書と日本国際知的財産保護協会(AIPPI)の意見書をご参照頂ければと思います。
両意見とも条件付きで域外適用を肯定する意見(侵害を認める意見)となっているようです。特に、AIPPIでは国際調和の観点から被告システムの生産が日本国の領域内で行われたものとして評価し得るとの立場をとっているようです。より具体的には、昨年7月の知財高裁判決(知財高判R4.7.20)の判示に基づき、以下三点からシステムの生産行為が日本領域内で行われたものとして評価し得るとの意見となっております。
- システムの生産が日本領域内からの制御下で行われている点
- システムの提供するサービスが日本の顧客に向けられている点
- 特許発明の効果が日本領域内において発現している点
所感
IT系特許弁理士(筆者 芹澤)としましては、システムクレームの域外適用は認めて頂きたいと思っております。本事件は、海外クラウドサーバを用いたWEB2.0だけでなく、ブロックチェーン技術を用いたWEB3.0関連特許に対しても今後影響を与えるものと考えています。特に、ブロックチェーンではノード端末が世界中に分散されているため、WEB3関連発明は、クライアントサーバシステム関連の発明よりも大きな影響を受けるように思われます。
さらに、昨年7月の知財高裁判決(知財高判R4.7.20)では、プログラムクレームとユーザ端末クレームの直接侵害及び間接侵害が認められましたが、プログラムクレームやユーザ端末クレームだけでは十分にカバーしきれないIT系の発明もございます。
この点において、ユーザ端末側に配信されるフロントエンド側のプログラム(JavaScript等)に新規の特徴がない場合等では、クレームの作成が困難となります。サーバ若しくはブロックチェーンネットワークとユーザ端末とで構成されるシステム全体で新規の特徴がある場合等(例えば、サーバのバックエンド処理に特徴がある場合)では、やはりシステムクレームの存在が必要となるように思われます。