本記事は、日本の特許出願を多少知っている方向け(特に、外国弁理士向け)の内容となります。本記事を通じて特許出願の大事な実務的ポイントを抑えることができるかと思います。
クレーム(請求項)の数に応じて特許庁に支払う審査請求費用と特許年金費用が変わる
審査請求費用の計算式は以下となります。
- 通常出願の場合:138,000円+(請求項数)×4,000円
- 日本国特許庁以外が国際調査報告書を作成した国際特許出願の場合:124,000円+(請求項数)×3,600円
特許年金費用の計算式は以下となります。
- 第1年から第3年まで:毎年4,300円+(請求項数)×300円
- 第4年から第6年まで:毎年10,300円+(請求項数)×800円
- 第7年から第9年まで:毎年24,800円+(請求項数)×1,900円
- 第10年から第25年まで:毎年59,400円+(請求項数)×4,600円
クレーム数(請求項数)が過度に多いと(例えば、50項以上)、審査請求費用と特許年金費用が高額となるため注意が必要となります。
中小スタートアップ企業や個人事業主であれば、審査請求費用と特許年金費用が安くなる
以下の要件を満たす出願人の場合、特許庁に支払う審査請求費用と特許年金費用(1年度から10年度)が1/3となります。
個人事業主の場合:
- 事業開始後10年未満であること(中小スタートアップ企業)、又は
- 常時使用する従業員数が20人以下(商業又はサービス業の場合には5人以下)であること(小規模企業)
*ご注意頂きたい点としては、出願人が個人であっても、開業届を税務署に提出していない個人事業主である場合には、個人事業主に基づく審査請求料の軽減は受けられません。また、出願人が企業に所属している一方で、個人事業主でもある場合には、個人事業主に基づく審査請求料の軽減を受けられます。この点はよくご質問を受ける事項となります。
法人の場合(中小スタートアップ企業):
- 法人設立後10年未満であること、
- 資本金額又は出資総額が3億円以下、且つ
- 大企業に支配されていないこと*
*「大企業に支配されていないこと」とは、単独の大企業が株式総数又は出資総額の1/2以上の株式又は出資金を有していないこと、且つ複数の大企業が株式総数又は出資総額の2/3以上の株式又は出資金を有していないことを指します。
法人の場合(小規模企業):
- 常時使用する従業員数が20人以下(商業又はサービス業の場合には5人以下)であること、且つ
- 大企業に支配されていないこと
また、以下の要件を満たす出願人の場合、審査請求費用と特許年金費用(1年度から10年度)が1/2となります。
個人事業主の場合:
- 業種に応じた従業員数以下であること(従業員数は中小企業基本法上の中小企業の従業員数に相当)
法人の場合:
- 中小企業基本法上の中小企業に該当すること、且つ
- 大企業に支配されていないこと
例えば、業種がソフトウェア業又は情報処理サービス業である場合、従業員数が300人以下又は資本金額若しくは出資総額が3億円以下である企業は上記の中小企業に該当します。
早期審査とスーパー早期審査
日本特許出願では、審査請求から約10月後に一次審査結果(特許査定又は拒絶理由通知)が来ますが、早期審査請求をすることで約2.3月後、スーパー早期審査請求をすることで約0.6月後に一次審査結果が来ます。
中小スタートアップ企業による特許出願であれば、ほぼ確実に早期審査請求が可能となります。
さらに、中小スタートアップ企業による特許出願で、特許出願に係る発明が実施される予定であれば、ほぼ確実にスーパー早期審査請求が可能となります。
また、大企業による特許出願であっても今後外国出願の予定があれば、早期審査請求の対象となります。
早期審査のメリットとして早期権利化もございますが、権利化を断念する場合には発明を公開させずに済む点もメリットとなります(公開前に審査の決着がついているケースが多いため)。
マルチマルチクレームは拒絶理由の対象となる
2022年4月以降の特許出願(若しくはPCT出願)において、マルチクレーム(多項従属クレーム)に従属するマルチクレーム(多項従属クレーム)(以下、そのようなクレームを「マルチマルチクレーム」という。)が含まれている場合、当該特許出願は、マルチマルチクレームの使用に基づき拒絶理由の対象となります。この場合、拒絶理由通知書において、拒絶対象となったマルチマルチクレームについての新規性・進歩性の審査がされない点に留意が必要となります。
マルチマルチクレームの例:
【請求項3】(マルチクレーム)
Aをさらに備える、請求項1又は2に記載のX装置。
※請求項3は、複数の請求項(請求項1と2)を引用しているため、マルチクレームとなる。
【請求項4】(マルチマルチクレーム)
Bをさらに備える、請求項1から3のうちいずれか一項に記載のX装置。
※請求項4は、複数の請求項(請求項1から3)を引用しつつ、マルチクレームである請求項3を引用しているため、マルチマルチクレームとなる。
国内移行時においてPCT出願のクレーム中にマルチマルチクレームが含まれている場合には、マルチマルチクレームの解消のための自発補正を行うことを推奨いたします。
出願時において委任状の提出は必須ではない
特許出願をするためには代理権を示す委任状の提出は必須とはなりません。一方で、出願を取り下げる場合(国内優先権出願含む)や審判請求をする場合には、特定手続きの代理権を示す委任状の提出が必要となります。
また、委任状には出願人の署名や押印が不要となりました。出願人の署名や押印がない委任状でも現在は有効なものとして扱われます。
弊所では、出願人様に特許庁に提出する委任状を一度確認して頂いた上で、署名や押印をせずに委任状を特許庁に提出します。
ソフトウェア関連発明では、方法クレームよりもプログラムクレームの方が重要かも
日本特許出願では、プログラムクレーム(プログラムを対象としたクレーム)が認められております。一方、米国特許出願や中国特許出願では、プログラムクレームが認められておりません。
日本特許出願では、方法、装置(端末、サーバ)、システム、プログラム、記憶媒体等のあらゆるカテゴリーのクレームが認められています。
一方、ソフトウェア関連発明では、方法クレームでの権利行使が難しい場合があります。例えば、ユーザが端末にインストールされたアプリを通じて方法クレームに係る発明(以下、方法発明)を実施した場合、ユーザは業として(ビジネスとして)方法発明を実施していないため、ユーザの方法発明の実施は権利侵害とはならない可能性があります。
また、アプリ配信会社がインターネットを通じてアプリを配信した場合、当該アプリの配信行為は方法発明の間接侵害には該当しないと判断される可能性があります。つまり、日本では、米国等とは異なり、アプリ配信会社によるアプリ配信行為が方法発明の誘導侵害として認定されない点に留意が必要となります。