特許出願における補正の時期と内容に関する要件

日本特許出願における特許請求の範囲(クレーム)、明細書又は図面(以下、クレーム等)の補正に関する時期的要件と内容的要件についてのご紹介の記事となります。

まず最初にクレーム等の補正に関する時期的要件について以下の図に示します。

上記図に示すように、出願から拒絶理由通知を受けるまでの期間では、クレーム等の補正はいつでも可能となります。一方で、拒絶理由通知を受けた後は、補正の時期が制限されることになります。具体的には、拒絶理由通知に対する応答期間内においてクレーム等の補正が可能となります。さらに、拒絶査定を受けた後は、拒絶査定に対する不服の審判請求時において補正が可能となります。

審判請求後では、審判官合議体より拒絶理由通知を受けた場合には、クレーム等の補正が可能となります。筆者の実務経験上、審判請求後でも高い確率で拒絶理由通知が発行されますので、実務上は審判請求後でもクレーム等の補正は可能であると考えて良いかと思います(勿論、主張内容に応じて審判請求後そのまま審決となる場合もあります(特に拒絶審決の場合))。

尚、願書等に記載された事項に関する補正は出願が特許庁に係属している間はいつでも可能となります。要約書に関しても出願公開前(出願日(又は優先日)から1年4月以内)に補正可能です。こちらは職権補正が多いのが実情となります。

次に、クレーム等の補正に関する内容的要件(内容的な制限事項)についてのご説明となります。

基本要件(要件その1)

全体の期間を通じて、明細書や図面等に記載されていない事項(新規事項)をクレーム等に追加する補正は認められておりません。

ここで、新規事項(換言すると、新たな技術的事項)の程度が問題とはなりますが、筆者の実務経験上、日本における新規事項追加に係る運用は比較的緩めのスタンスであると感じております(新規事項追加の運用の厳しさは、EP > 日本 > 米国の順番)。

要件その1(新規事項の追加の禁止)を満たさない補正は拒絶理由/取消理由/無効理由となります。

最初の拒絶理由通知後の要件(要件その2)

最初の拒絶理由通知を受けた後では、要件その1に加えて、要件その2(シフト補正の禁止)が追加されます。

要件その2では、拒絶理由の応答に際して補正したクレーム(補正後のクレーム)と補正前のクレームとの間の単一性を維持する必要があります。

例えば、補正前のクレーム1が自動車を発明主題としている一方で、補正後のクレーム1が医薬品を発明主題としている場合等が該当します。この場合、補正前後のクレーム1には単一性がないため(共通の特別な技術的特徴(STF)がないため)、要件その2を満たしていないことになります。

審査官も審査業務で日々忙しいため(最近は先行技術調査をかなり外注しているようですが)、応答後のクレーム内容が自動車から医薬品に変更されてしまうと、先行技術調査をもう一度やり直す必要があり、審査効率上大きな問題があるわけです。

要件その2(シフト補正の禁止)を満たさない補正は拒絶理由となります(取消理由や無効理由ではない)。

最後の拒絶理由通知後の要件(要件その3)

最後の拒絶理由通知を受けた後では、要件その1及びその2に加えて、要件その3(目的外補正の禁止)が追加されます。要件その3では、補正の目的が制限されることになります。これも審査効率上の措置となります。

米国特許出願でも同様に最後のオフィスアクションを受けた場合には新たな争点(new issue)を導入する補正は審査官に考慮されずにアドバイザリ通知の対象となります。

具体的には補正の目的が以下に限定されます。

  • クレームの削除
  • クレームの減縮
  • 誤記の訂正
  • 不明瞭な記載(拒絶理由に示す事項に限定)の釈明

審査官の裁量によるところも大きいですが、新規従属項の追加も目的外補正となります。

また、クレームを減縮した場合には、新規性・進歩性等の特許要件を満たすことが更に要求されます(これを独立特許要件といいます)。ちょっと話がややこしいのですが、クレームを減縮する場合には新規性・進歩性がないと補正却下の対象になるということです。

要件その3を満たさない補正に対しては補正却下の対象となります(実務上ではクレーム減縮に伴う独立特許要件違反が多いです)。補正却下後は補正前のクレームで再度審査がされますので必然的に拒絶査定となります。

補正が却下されると、補正前のクレームで審判請求時の補正方針を考えることが可能となります(実際には補正が却下されずに拒絶査定となることが多い)。要件その3に縛られずに比較的自由にクレームの内容を変更したい場合には、審判ではなく分割出願を選択するのが良いかと思います。

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