商標登録出願において、第35類に複数の小売等役務を指定した場合、商標法第3条第1項柱書に基づく拒絶理由が通知されることがあります。
第35類には、「化粧品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」のような小売等役務を指定することができます。
もっとも、異なる商品分野について複数の小売等役務を指定した場合には、出願人が実際にこれらの業務を行っているのか、又は行う予定があるのかについて特許庁から確認を求められる場合があります。
以下、第35類の小売等役務に対する商標法第3条第1項柱書の審査運用及び拒絶理由を受けた場合の対応について説明します。
商標法第3条第1項柱書
商標法第3条第1項柱書では、自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標について、商標登録を受けることができる旨が規定されています。
そのため、指定商品又は指定役務について商標を使用していること、又は使用する意思があることに合理的な疑義がある場合、商標法第3条第1項柱書に基づく拒絶理由が通知される場合があります。
特許庁では、商標の使用の前提となる指定商品又は指定役務に係る業務を出願人が行っているか、又は行う予定があるかを確認することによって、商標の使用又は使用意思を判断しています。
第35類の小売等役務で拒絶理由が通知される場合
特許庁の商標審査便覧では、小売等役務について、次の場合には原則として商標の使用又は使用意思について合理的な疑義があるものとして取り扱われています。
1.個人が総合小売等役務を指定した場合
衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売等役務は「総合小売等役務」と呼ばれます。
総合小売等役務は百貨店、総合スーパー等が提供することを想定した役務であるため、個人が総合小売等役務を指定した場合には、原則として業務の確認が行われます。
2.法人が総合小売等役務を指定したものの、業務が確認できない場合
法人が総合小売等役務を指定した場合であっても、特許庁による調査によって総合小売等役務を行っていることが確認できない場合には、商標の使用又は使用意思について確認が行われます。
3.類似関係にない複数の小売等役務を指定した場合
実務上、問題となることが多いのが、類似関係にない複数の小売等役務を指定した場合です。
例えば、異なる商品分野について複数の小売等役務を指定すると、同一事業者がこれらすべての小売等役務を行うことが一般的とはいえないとして、商標の使用又は使用意思について確認を求められる場合があります。
この判断には、小売等役務に付されている「類似群コード」が用いられます。
類似群コードについて
日本の商標実務では、商品又は役務の類似関係を判断するために「類似群コード」が付されています。
第35類の小売等役務については、主として「35K01」から「35K99」までの類似群コードが使用されています。
複数の小売等役務を指定していても、これらが同一の小売等役務類似群に属する場合には、原則として一つの類似群として取り扱われます。
これに対し、例えば、
- 小売等役務A:35K○○
- 小売等役務B:35K△△
のように、異なる小売等役務類似群に属する役務を指定した場合には、「類似の関係にない複数の小売等役務」を指定しているとして、商標法第3条第1項柱書の対象となる場合があります。
なお、小売等役務については、取扱商品の類似群コードではなく、小売等役務自体に付された35K系の類似群コードを基準として判断するのが原則です。
1区分で23以上の類似群コードを指定した場合
商標法第3条第1項柱書による使用確認は、小売等役務に限られません。
小売等役務以外の商品・役務についても、原則として、1区分内に23以上の類似群コードにわたる商品又は役務を指定している場合には、指定範囲が広いとして商標の使用又は使用意思について確認が行われます。
第35類についても、小売等役務のほかに広告、経営に関する助言、求人情報の提供等を多数指定した結果、区分全体で23以上の類似群コードにわたる場合には、この理由による拒絶理由が通知されることがあります。
したがって、第35類では、次の2点を確認する必要があります。
- 類似関係にない複数の小売等役務を指定していないか
- 区分全体で23以上の類似群コードにわたっていないか
拒絶理由を受けた場合の対応
使用していることを証明する
指定された小売等役務に係る業務を既に行っている場合には、その事実を証明する資料を提出することで対応できます。
商標審査便覧では、証拠資料として、例えば以下のものが挙げられています。
- 取扱商品が記載されたカタログ、ちらし
- 店舗及び取扱商品が分かる写真
- 注文伝票、納品書、請求書、領収書
- 業務内容や取扱商品が紹介されている新聞、雑誌、インターネットの記事
小売等役務については、原則として小売等役務の類似群ごとに業務を行っていることを明らかにする必要があります。
使用意思及び事業予定を提出する
まだ業務を開始していない場合でも、将来の使用予定を示すことで対応できる場合があります。
特許庁では、出願後3~4年以内に商標の使用を開始する意思がある場合には、指定商品又は指定役務に係る業務を行う予定があるものとして取り扱っています。
この場合には、次の資料を提出します。
- 商標の使用意思を明記した書面
- 予定している業務の準備状況を示す書類
商標審査便覧には、使用開始予定時期を記載した使用意思書及び店舗の開設予定や販売開始予定等を記載した事業予定の例が掲載されています。
なお、事業予定の具体性が十分でない場合には、事業計画を裏付ける資料の提出を求められる場合があります。
指定役務を削除する
使用証拠又は具体的な使用予定を示すことができない場合には、指定役務の一部を削除する方法があります。
例えば、異なる小売等役務類似群に属する複数の小売等役務を指定している場合には、一つの小売等役務類似群に属する役務のみを残し、他の小売等役務を削除することによって拒絶理由を解消できる場合があります。
商標審査便覧でも、複数の特定小売等役務を指定したことによる拒絶理由について、役務の一部を削除して特定小売等役務を一つにした場合には、商標法第3条第1項柱書の要件を満たすものとして取り扱うことが示されています。
また、1区分内に23以上の類似群コードがあることを理由とする拒絶理由については、一部の商品又は役務を削除し、類似群コードを22以下とする方法が考えられます。
分割出願を行う
指定役務を削除したくない場合には、分割出願も選択肢となります。
例えば、複数の小売等役務類似群を指定している場合に、
- 原出願:35K○○
- 分割出願:35K△△
のように、小売等役務の類似群ごとに出願を分ける方法です。
各出願に含まれる小売等役務の類似群が一つであれば、少なくとも「類似関係にない複数の小売等役務を指定している」という理由による商標法第3条第1項柱書の拒絶理由は生じないことになります。
ただし、総合小売等役務の場合や、その他の事情から商標の使用又は使用意思自体に疑義がある場合には、類似群が一つであっても確認が行われる場合があります。
また、分割出願には商標法上の要件がありますので、実際に分割する場合には、出願の手続状況や指定商品・役務を確認する必要があります。
小売等役務を指定する必要があるか
自社商品をECモールや自社サイトで販売する場合に、第35類の小売等役務を必ず指定しなければならないわけではありません。
例えば、自社ブランドの化粧品を販売する場合には、まず化粧品そのものについて該当する商品区分で商標権を取得することが基本となります。
第35類の小売等役務についての商標登録は、商標を店舗名やオンラインショップ名等、小売サービスを表示するものとして使用する場合には重要になります。
そのため、第35類の小売等役務について拒絶理由を受けた場合には、拒絶理由を解消できるかという点だけではなく、その小売等役務について商標権を取得する必要があるかについても検討することになります。
まとめ
第35類に複数の小売等役務を指定した場合、異なる小売等役務類似群に属する役務が含まれていると、商標法第3条第1項柱書の拒絶理由が通知される場合があります。
拒絶理由を受けた場合には、使用証拠の提出、使用意思及び事業予定の提出、指定役務の削除、分割出願等の対応が考えられます。
また、出願時に小売等役務の類似群コードを確認し、実際の事業内容に応じて指定役務を整理しておくことで、拒絶理由を回避できる場合があります。
参考資料
- 特許庁「商標審査便覧」(41.100.03「商標の使用又は商標の使用の意思を確認するための審査に関する運用について」)
- 特許庁「商標審査基準」
- 特許庁「類似商品・役務審査基準」


