経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(令和四年法律第四十三号)、いわゆる、経済安全保障推進法に基づく保全対象発明の実施禁止、開示禁止、外国出願禁止について今回はご紹介します。
同法は知的財産権法の一部ではないことから、馴染みのない弁理士や弁理士受験生の方は多いかと思います。私もあまり馴染みのない法律であったため、今回条文の内容を精査してみることにしました。
経済安全保障推進法の目的
- 重要物資や原材料のサプライチェーンの強靱化
- 基幹インフラ機能の安全性・信頼性の確保
- 官民が連携して重要技術を育成・支援する枠組み
- 特許非公開化による機微な発明の流出防止
経済安全保障推進法の経緯
・2022/5/11 成立
・2022/5/18 公布
・公布から6月-24月以内に段階的に施行。換言すれば、2022/11/18-2024/5/18の間に段階的に施行される。
・2023/4/28 特許出願非公開基本指針の閣議決定
発明の実施禁止、開示禁止、外国出願禁止に関する条文(経済安全保障推進法の65条-83条)について解説
65条
・同条3項において、特許出願非公開基本方針について閣議決定される必要があることが明記(資料についてはこちらを参照ください)。
66条
・国家国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された特許出願の場合、出願日から3月を超えない範囲内で特許出願書類が特許庁長官(特許庁)から内閣総理大臣(内閣府)に送付される。
67条
・当該発明の保全が適当かどうかの保全審査を行う。
・内閣総理大臣は、発明を保全指定する場合には、保全対象発明の内容を出願人に通知するとともに、当該発明に係る情報管理状況等の書類の提出を出願人に要求する。
・出願人は、通知日から14日以内に上記書類を提出する必要あり。
68条
・保全審査中の発明公開の禁止
69条
保全対象発明に係る情報管理状況等の書類を提出しない場合には保全審査が打ち切られるとともに、特許出願が却下される。
70条
・内閣総理大臣は、発明を保全対象発明として指定(保全指定)する場合には、1年を超えない範囲で保存指定の期間を定める(延長も可能)。この場合、特許出願の放棄・取下げ不可。
71条
保全指定しない場合の通知
73条
・保全対象発明の実施禁止(実施によって保全発明の内容を第三者が把握できない場合には、実施可能)→実施禁止規定に違反した場合には、特許出願が却下される(同条8項)。
74条
・保全対象発明の開示禁止。開示禁止規定に違反した場合には、特許出願が却下される(同条3項で準用する73条8項)
75条
・発明共有事業者に対する情報漏えい防止措置
77条
・保全指定を継続する必要がない場合における保全指定の解除
78条
・国家国民の安全を損なう事態を生じるおそれが大きい発明が記載された外国出願の禁止。特許出願日から政令指定期間(10月を超えない範囲)を経過までに保全指定されない場合は、外国出願可能。
79条
・外国出願前において、当該外国出願が禁止されるべきかどうかを特許庁長官に確認を求めることが可能(外国出願禁止に関する事前確認)。この場合、特許庁長官は、内閣総理大臣に確認を求める。
・外国出願禁止に関する事前確認には、所定の庁手数料(25000円を超えない金額)の納付が必要。
80条
・保全対象発明の実施禁止に対して国からの損失補償を請求可能。
81条
・出願公開されない保全対象発明が記載された特許出願に係る特許権に対する通常実施権
92条
・保全対象発明を実施又は開示した場合には、2年以下の拘禁刑及び/又は100万円以下の罰金(未遂も罰する)(同条1項6号、8号及び同条2項)
94条
・保全対象発明を外国出願した場合には、1年以下の拘禁刑及び/又は50万円以下の罰金
以上、特許非公開化の流れは以下となります。
・実施禁止、開示禁止、外国出願禁止の命令に違反した場合には、刑事罰(拘禁刑及び/又は罰金)の対象となる。
・外国出願が禁止されるべきかに関しては特許庁に事前確認を要求可能。
経済安全保障推進法の条文は以下から確認できます。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=504AC0000000043_20250616_504AC0000000068
コメント
特許非公開制度は、国家安全保障上において重大な影響を与える発明(保全対象発明)の公開禁止、実施禁止、外国出願禁止の三本の柱からなる制度となります。さらに、公開禁止、実施禁止、外国出願禁止の命令に背いた場合(未遂を含む)には、刑事罰が適用される点で大きな特徴がございます。